1.整理解雇を行うにいたったストーリーが重視される。
① 人員削減の必要性
裁判などで整理解雇が有効と認められるには、まず、相当の経営上の必要性がなければならないとされます。
最も厳格な解釈によると経営上の必要性とは、会社が経営の危機に瀕しているために、人員削減が必要となっているということになりますが、近年では企業の「経営権」が尊重され、経営悪化の予防線としての必要性や、組織変更によるポスト不足による必要性が認められる場合もあります。
裁判などの場では、会社は自ら整理解雇の必要性を証明する必要があります。
過去数年の会計報告や人件費の一覧表、あるいは個々の経理伝票など経営状況を客観的に示す資料を提示することにより証明としますが、これらはおおよそ会社の業績の低下を示していなければなりません。
整理解雇をしながら、大量に新規採用を実施している、高額の役員報酬や株主配当の支給などといった、施策の矛盾は人員削減の必要性を否認される要因となりますので、注意が必要です。
② 解雇回避努力
つぎに、整理解雇をなるべく回避する方向で経営努力がなされたかという点が確認されます。
解雇、とくに正社員の解雇は日本における終身雇用の慣行と相まって、会社が経営危機に瀕した際にも最後まで行うべきでないとされ、そこに至るまでにあらゆる手段を尽くしたことが要求されるのです。
具体的には、残業削減、役員報酬の削減、配置転換・関連会社への出向、新卒採用の停止、パート・アルバイトの雇い止め、一時休業、希望退職者の募集などが解雇を回避するための施策とされ、早い段階から整理解雇を行うことは認められません。
ただし、人員削減が必要となった背景との関連により、たとえば、経営悪化の予防線としての必要性や、組織変更によるポスト不足による必要性が認められた場合には、回避努力に関してはそれほど問題にはならないものと思われます。
2.手続きは客観的かつ合理的、民主的に進めなければならない。
① 人選の合理性
どうしても整理解雇が必要となり、努力にかかわらず避けられないという場合、つぎは誰を解雇するのかという話になります。
整理解雇の場合は普通解雇と異なり、始めに解雇したい特定の社員ありきではなく、人員削減が必要だというところから発想していかねばなりません。
整理解雇が裁判などで認められるには「客観的で合理的」な基準で恣意によらず被解雇者を選定することが求められ、会社は自らそのことを証明する必要があります。
たとえば人事考課の結果を判断基準とする場合には、資料として、過去数年分の考課の項目、そのような結果に至った根拠、その他就業記録などが根拠として求められます。
人事考課が考課者のさじ加減で行われ、そこまで厳格な記録によらないものなどは整理解雇の根拠としては認められないため、注意が必要です。
一般的には、業務に必要な資格の有無による判断、出欠勤や遅刻の状況による判断、部門の閉鎖によりその部門の社員を解雇する場合などは、客観性や合理性があると認められやすい傾向にあります。
② 手続きの妥当性
整理解雇はすべからく会社側の事情で行われるものですが、そのために不利益を強いられる社員側の都合も聞かなければならないものとされています。
具体的には、整理解雇を行う際の「手続き」として、労働組合などに対し、整理解雇に踏みきらざるをえない事情、それまでに取ってきた対策、対象者の選定基準、整理解雇の進め方、その後の見通しなどに関して、十分な説明を行い、協議することが求められます。
この手続きを無視した場合、整理解雇四要件の他の3つに沿ったものであったとしても、裁判などで解雇は無効であると判断される可能性が高くなってしまいます。
労働組合や社員との交渉が難航することも考えられますが、会社として説明や協議を尽くしたうえで意見の一致が望めないのであれば、致し方のない場合もあるでしょう。
しかしながら、解雇をするにあたっては、社員側の意見を容れて同意を取り付けるほど、合意退職(退職勧奨)に近い意味合いとなってくるため、法的なリスクが少なくなるといえます。
整理解雇にあたってはこれらの手続きを踏まえ、解雇される社員側 への誠意を示すことで、無用なトラブルを避けるようにしたいものです。
3.事業の廃止に伴い従業員を全員解雇する場合は解雇が認められやすい。
会社組織の部門または営業所の一部を閉鎖し、所属する従業員を解雇する場合には整理解雇の要件に沿って行わねばならず、他の部門や営業所への転属など、相応に解雇回避のための努力をすることが求められます。
しかし、全社的な事業の廃止に伴い、会社の法人格が消滅する場合は整理解雇とは異なり、労働契約の当事者が不在となるため、それに伴って労働契約は終了することとなります。
事業の廃止および法人の解散は会社の経営権に属する問題であり、労働法上の制約を受けることはありません。このような法人の解散は「真に」事業を解散するものである限り有効であり、労働組合を排除する目的・意図で行っていたとしても効力に影響はないとされています(大森陸運ほか2社事件 大阪高判H15.11.13)。
「真に」事業を解散するというのは会社を解散をして従業員を解雇し、実質的に使用者が同一とみられるような体制に引き継ぐケース(偽装解散)は含まれないということでして、そのような場合には「法人格否認の法理」により、実質的に元の法人と同一であるとして新法人が雇用に関する責任を追及されることとなります。
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