1.辞めさせるのではなく、辞めてもらう。
① 労働契約をどちらの意思で終了するか
解雇と退職では、どこが違うのでしょうか。 どちらも会社と社員との間に結ばれた労働契約を終了させることには変わりありません。 違うのは、会社側の意思で辞めさせるのか、それとも社員側の意思で辞めるのかという点だけです。 ちなみに、退職には期間満了や定年により自然に労働契約が終わる場合などもありますが、ここでは割愛します。 ご質問のケースでは会社のほうが社員を辞めさせたいわけですが、先に申し上げた通り、解雇には相当厳しい制約があり、社員をこのまま雇用しておくことが誰から見ても明らかに不可能といった状況でなければ、法的に認められません。会社側が証拠を集めてこうした事実を証明するのは相当困難であり、会社を辞めさせたい社員がいたとしても、解雇とはせずにできれば退職の形にもっていくことを先に検討した方がよいでしょう。具体的には、会社側から退職することを勧め、最終的に社員みずから退職の意思表示をしてもらう退職勧奨というアプローチをとりますが、それにはいくつかの決まり事を守って行う必要があります。
② 退職勧奨を進める際の流れ
退職勧奨を一言で説明すると、会社を辞めてもらいたい旨を(直接ではなく)遠回しに伝え、本人に辞める意思を固めてもらうということです。退職勧奨を行うには、対象となる社員を呼び出し、交渉を行うことになります。その際に会社としては「あなたが希望する仕事を与えられない」「他の会社の方が向いているのではないか」といったことを伝え、会社に留まるデメリットを理解してもらった上で、退職金の加算や再就職先のあっせんなど、退職した場合のメリットを切り出していくことになります。 そうはいっても、社員は職を失うわけですので、積極的に会社を辞めることに合意してくれるとは限りません。 粘り強く説得を続け、あるいは社員側の不満を聴き、要求を受け入れ、少しずつ会社を辞めることに合意してもらう方向へ持っていきます。 この退職勧奨自体に法的な効力はなく、あくまで「会社と社員の間のコミュニケーション」という位置づけです。 だからこそ会社としてはいつでも自由に行うこともできるのですが、退職勧奨は法的に要件が定められているということではなく、労働契約や就業規則で手続きが定められていることも少ないため、会社の担当者の個人的なスキルによるところが大きく、トラブルが発生してしまいがちです。 そのため、退職に向けた交渉を進める上でのガイドラインをあらかじめ設けておくことが必要です。 ガイドラインに沿って交渉を進め、その過程および結果を書面で残しておくことで、トラブルの機会を減らすことができるでしょう。
2.目先のことだけでなく、辞めさせた結果を考える。
① 辞めさせるという態度を直接出さない
退職勧奨を行う際にとくに気をつけたいのは、解雇とみなされてしまうのを避けることです。 会社側の本音として辞めさせたい社員であったとしても、あくまで自らの意思で辞めてもらわねばなりません。 もし、解雇とみなされれば、先ほどご説明した厳しい基準によりその成否が判断され、法的にはほぼ認められない結果となってしまいます。 他には、社員が会社を辞める以外の選択がないと認識して退職した場合、後になって「錯誤」があったとして、退職の意思表示を無効とされてしまうことがあります。これは、退職勧奨を行う際には、会社で「働き続けることもできる」が、メリットが少ないといった説明を行わねばならないということです。また、退職に合意してもらうために相手の社員を長時間にわたり拘束したり、暴力や脅しと取られる行為を行ってはいけません。 「強迫」があったとして退職を無効とされ、そのうえ損害賠償や慰謝料まで請求されかねません。 とにかく、社員には自由な意思のもとに退職という選択をしてもらう必要があるということです。
② 理想としては気持ちよく辞めてもらう
合意退職にしても、せっかくご縁があって一緒に仕事をしていた仲間なのですから、感情的にしこりを残すことは極力避けねばなりません。 退職した社員は「あの会社はひどい会社だった」と、いつまでも悪評を流し、取引先や他の社員の耳に入ることもあるのです。 過去に当事務所で扱ったケースでは、退職後に通報されたのか、労働基準監督署や税務署から立て続けに会社に連絡が入るというケースもありました。 いずれにしても、強引な手法で辞めさせても良いことはなく、トラブルの原因をつくるだけです。 気持ちよく辞めてもらえることはあり得ないにしても、ある程度、悪い気持ちを抱かずに辞めてもらえるように努力しましょう。
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