1.妊娠、出産、育児にかかる女性従業員の権利と「現実的な」問題。
① 妊娠、出産、育児にかかる女性従業員の権利
女性従業員が妊娠、出産し、または育児を行うにあたっては労働基準法、男女雇用機会均等法、および育児・介護休業法の定めにより、会社に対して以下に挙げる措置を求めることが権利(一部は就業禁止の義務)として定められており、本人から申し出があった場合、就業規則などの定めの有無にかかわらず、必ずこれを実施しなければなりません。
妊娠、出産、育児に伴い、会社が実施すべき措置
A. 妊娠中および産後1年以内(保育園に入園できない場合などは1年6ヶ月以内)
・保健指導または健康診査を受けるために必要な時間の確保
・医師の指導による勤務時間の変更、勤務軽減等の措置の請求
・法定時間外、法定休日、深夜に労働しないことの請求
B. 出産予定日以前42日~出産日後56日
・産前休業の請求および産後休業(就業禁止)
C. 産後休業終了~子が1歳に達するまで ※
・育児休業の申し出
・育児時間の請求および取得
※ 子が保育園に入れない場合などは1歳6ヶ月に達するまで
D. 産後休業・育児休業終了~子が3歳に達するまで
・育児短時間勤務の申し出
・ 所定時間外、所定休日労働を行わない
E. 産後休暇・育児休業終了~子が小学校に入学するまで
・子の看護休暇
・一定時間を超える法定時間外労働、
・深夜に労働しないことの請求
② 法的に保護される女性従業員と、会社および職場に生じる「現実的な」問題
女性従業員がこうした措置をフルに活用しようとすると、(建前はともかく現実として)会社および職場にとって相当の負担になると見られます。しかし、そのことおよび結婚、妊娠、出産したこと、つわりなどで仕事の効率が低下したことなどを理由として解雇など不利益な取り扱いをすることは男女雇用機会均等法および育児・介護休業法の定めにより禁止されています。また、とくに産前産後休業の期間およびその後に続く30日間は「天災事変その他やむを得ない事由により事業の継続が不可能となったとき」を除いて解雇が禁止されており、実質的に解雇を行うことは不可能となっています。
妊娠、出産、育児に伴い、会社および職場に生じる「現実的な」問題
・休暇・短時間勤務の取得などによるイレギュラーな勤務
・つわりなどによるパフォーマンスの低下
・産前産後および育児休業中の代替要員の確保
・休業のブランクによる職務能力の低下、陳腐化
・職場復帰時における代替要員とのポジションの兼ね合い
2.妊娠、出産、育児にかかる女性従業員に会社の都合を聴いてもらえるか?
① 妊娠、出産、育児にかかる従業員に解雇や雇い止めを行うのは難しい
逆説的にいえば、妊娠、出産、育児に関わりのない理由であれば、産前産後休業の期間およびその後の30日間を除き、解雇や雇い止めなどの措置を行うことはできるはずなのですが、最近の判例(広島中央保険生活協同組合事件 最判H26.10.23)によると、妊娠、出産、育児を理由として会社が行う解雇その他不利益な取り扱いに類する措置は原則として無効であり、その従業員が自由な意思に基づいてその措置を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する場合か、円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性がある場合であって、その内容や程度、およびその従業員にとって有利または不利な内容や程度に照らして、法の趣旨目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときのみ認められるとされています。このことを立証する責任は会社側にあるものとされ、通常のタイミングで解雇や雇い止めなどの措置を行う場合と比べ、より厳格な基準をクリアしなければなりません。
男女雇用機会均等法および育児・介護休業法で禁止されている不利益取り扱いの例
(妊娠、出産、育児を理由とするもの)
・解雇
・契約社員の雇い止め
・契約更新回数の引き下げ
・退職勧奨
・正社員から契約社員などへの労働条件の変更
・降格
・減給
・賞与等における不利益な算定
・不利益な配置転換
・人事考課における不利益な評価
・就業環境を害する行為
たとえば、解雇や雇い止めなどがもともと決まっていたことならば、後から妊娠や出産が判明したところで、予定通り退職とすることに何ら支障はありません。あるいは、育児が一段落してからということでも同様です。そのため、女性従業員に解雇や雇い止めなどの措置を実施するのであれば、法的に保護される妊娠、出産、育児のタイミングは避けるべきであるといえます。
② 「自由な意思」に基づいてその措置を承諾してもらう
妊娠、出産、育児にかかる女性従業員に解雇など不利益な取り扱いを一方的に行うことは禁止とされていますが、「その従業員が自由な意思に基づいてその措置を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する」場合であれば、不利益と見られる労働条件の変更も問題ないとされています。たとえば、育児の都合により正社員からパートとなり、月給制から時間給制に労働条件を変更する場合などです。また、会社が女性従業員に、不利を覆すような代償措置(金銭の支払いや有給休暇の追加など)を提示し、労働条件を変更する旨の同意を得ることも考えられます。ただし、とくに妊娠、出産、育児を理由とする退職勧奨は禁止されているため(一方的な措置でなく承諾を得るためのプロセスなのですが)、「退職勧奨ととられる積極的な退職勧奨」は避けるべきです(微妙なニュアンスです)。同意を得た場合は、必ずその内容を「合意書」などとして残し、新たに労働契約書または労働条件通知書、あるいは育児休業取扱通知書を作成するようにします。なお、妊娠、出産などを理由とする退職に制度としてインセンティブを設けることは男女同一賃金の原則(労働基準法第4条)に違反するとされており、あくまで個別の交渉において合意をめざします。
調査対策サービス
労働基準監督署調査対策 │ 年金事務所調査対策 │ 労働組合対策
手続代行サービス
労働保険・社会保険手続代行 │ 労働保険・社会保険新規適用 │ 助成金申請代行 │ 給与計算代行 │ 労災保険特別加入(中小事業主) │ 労災保険特別加入(一人親方)