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有給休暇を退職時にまとめて消化する社員にどう対応するか?

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Q.当社の従業員が退職届の提出と同時に有給休暇申請書を提出し、退職日までの全日で有給休暇を消化したいと申し出てきました。就業規則では従業員が退職しようとする場合、退職日の1ヶ月前に退職届を提出するよう義務づけており、退職日はちょうど1ヶ月後ということで、就業規則に抵触するところはありませんが、このまま有給休暇を消化して退職されてしまうと、業務の引き継ぎを行うことができません。このような場合、業務に支障が出るとして労働基準法による時季変更権を行使し、有給休暇の取得を拒否することは可能でしょうか。
A.平成27年の厚生労働省「就労条件総合調査」によると全労働者の有給休暇の取得率は47.6%であり、半分以上の有給休暇が取得されないまま消滅しているという状況です。従業員の立場からすると退職は会社にはばかりなく有給休暇を消化する千載一遇のチャンスといえ、是が非でも有給休暇の権利が消滅する退職日までに全部消化しておきたいところでしょう。さて、ご理解の通り労働基準法により、従業員の指定した日に有給休暇を消化することが「事業の正常な運営を妨げる」場合には他の日に変更することができるとされていますが、一般的には、退職日を超えて有給休暇の時季を変更することはできない(有給休暇の取得を拒否することとなる)ため、有給休暇の消化を受け入れざるを得ないということになります。しかしながら、近年の判例(ライドウェーブコンサルティング事件 東京高判H21.10.21)によると退職にあたって業務引継等が必要不可欠であり、年休申請は業務の正常な運営を妨げるものとして会社側の(退職日を超えた)時季変更権行使を適法としたものもあり、業務の引き継ぎが事業運営上不可欠であるような場合には、有給休暇の消化を拒否できる場合もあります。さて、会社側は原則としては有給休暇の消化のために配慮を行うべきとされており、日常的に業務が忙しく、あるいは慢性的に人手が足りないといった程度では有給休暇の時季変更は認められません。一般的には、確実に業務の引き継ぎを行ってもらうために、業務の引き継ぎを完了した上で、退職日における有給休暇の残日数を買い取る、または退職日を延期するといった内容で従業員の方と交渉し、その内容を「退職合意書」としてまとめる措置が妥当と考えます。

1.退職および有給休暇消化の申し出は早めに行うことを義務づける。

① 退職の申し出は3ヶ月前に行うものとする

多くの会社の就業規則または労働契約書において従業員による退職の申し出は退職しようとする日の1ヶ月前までとしていますが、有給休暇の付与日数は最大40日ともなり、この間にまとめて消化されてしまうと、時間的に業務の引き継ぎをできる余裕がなくなってしまう場合があります。そこで、就業規則または労働契約書において退職の申し出は退職しようとする日の(たとえば)3ヶ月前としてもらえば、有給休暇を消化した上で、引き継ぎをしてもらうだけの時間の余裕ができることとなります。しかしながら、この3ヶ月前とするのは、あくまで社内のローカルルールであって、現実には「退職の自由」が優先され、本人の意思に反して退職できないというものではありません。また、民法の定めでは、期間の定めのない雇用契約については、2週間前までに解約(退職)の申し入れを行えばよいものとされています(ただし、期間の定めのある労働契約については、原則として期間満了まで解約することができません)。法的に有効かはさておき、会社としては所定の期間までに退職届が提出されなかったことを理由とし、退職の申し出を受理しないといった取り扱いを行うことにより、3ヶ月前に退職の申し出を行うことを堅持する姿勢を示す場合もあるかと思われます。

② 有給休暇を連続して取得する場合、3ヶ月前に申請を行うものとする

就業規則または労働契約書においては、従業員が有給休暇を消化する際にはあらかじめ所定の申請書(有給休暇申請書)を会社に提出しなければならないというような定めが一般的ですが、たとえば連続して10日以上の有給休暇を消化する場合は3ヶ月前に申請書を提出しなければならない旨の定めを設けることにより、従業員がまとめて有給休暇を消化しようとする際に時間の余裕をもって対応することが可能となります。会社としては時間に余裕があることで、「事業の正常な運営を妨げる」場合に時季変更権を行使し、会社のスケジュールに合わせて有給休暇を消化してもらう余地も出てきます。ちなみに、就業規則の定めに反した有給休暇の申請(有給休暇の取得日直前にまとめて有給休暇を申請し、業務に支障が出る場合など)について会社が時季変更権を行使することができるかについては、申請のタイミングなど個別の事情により、会社側の業務に支障が出る程度により可否が分かれるところですが、訓示規定的な意味合いとしても、このような定めを設けておくことは有用と考えます。

2.引き継ぎを行うインセンティブ、行わないペナルティをそれぞれ設ける。

① 退職金および賞与に引き継ぎを行わなかった際のペナルティを設ける

従業員が有給休暇を取得したことを理由として不利益な取り扱いを行うことはできませんが、退職時に業務の引き継ぎを行わなかったことを理由として社内規程によりペナルティを与えるのであれば、別段問題はありません。退職時に支払われる退職金や退職に前後して支払われる賞与がある場合、会社が命じた引き継ぎを行わなければ、退職金および賞与の全部または一部を支給しない旨の規定を就業規則などに設けておくことで、退職時に有給休暇をまとめて取得する場合のメリットより引き継ぎをしないペナルティの方が大きくなり、自然と引き継ぎを行ってもらうことが可能となります。ちなみに、退職金については、引き継ぎを行わなかった一事をもって退職金支給の根拠となる在職中の功績をすべて失わせてしまうほどの背信行為とはいえず、減額が認められる程度で、不支給とまではできないと考えられます(賞与については会社の支給基準に準拠します)。

② 有給休暇を買い取るなどして業務引継を行ってもらう

退職時に有給休暇の消化を認めざるを得ない場合は多いかと思われますが、そのような場合には本人と交渉し、以下のような内容を含めた覚書(退職合意書)を交わすといった解決が考えられます。

 退職合意書に盛り込む項目
有給休暇を
「買い取る」ケース
・退職日までに会社が指示した業務引継を行う
・年次有給休暇の取得は業務引継が終わり、会社が認めてからとする
・退職日における年次有給休暇の残日数を給与に換算した額の手当を支給する
退職日を
延期するケース
・退職日を(本人の希望日から延期し)○月○日とする
・退職日までに会社が指示した業務引継を行う

ちなみに、一般的に有給休暇の「買い取り」は有給休暇の取得を制限するものとして禁止されていますが、退職時に権利が消滅してしまう年次有給休暇であれば、その限りではないものとされています。

 

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